逆襲のモーティマー

アニメとか映画の感想置き場……になるはず

ジャングル大帝を“被害者”としてしか扱わない世間を糾弾したい 

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水木一郎兄貴の主題歌が熱いぜ。

タイトル通り 当たり前だけどめっちゃ面白いぞこの漫画!!

かく言うワシもついこの間まで89年版TVシリーズと98年の劇場版しか見ていなかっためっちゃニワカである訳なんですが、ニワカだからこそ言えることもあるかなーと思って書き殴ってみました。

11/3は手塚治虫先生の生誕100周年ということで、電子書籍配信サイトのebookJapanが三日間手塚作品400冊読み放題という太っ腹な企画を行ったことは記憶に新しい。

そこで前々から読みたいと思っていながら未読のままだったジャングル大帝をセレクトした訳ですが、これが執筆から60年以上経ったものとは思えないほど生き生きとした魅力に溢れていて、ページをクリックする指が止まらない。

気付けば5時間経ってました……やはり先生は偉大な神だ!以上!で終わっちゃったらブログ書く意味ねーじゃねーか!

 

  •  帰ってきたレオの第一声「ああこんな未開なところがぼくのふるさとだったのか」

読んでいてまず意外だったのが、この漫画は野生の王国を描く作品と思わせて、人間との接触シーンが多いのだ。

輸送船の中で誕生したレオは、偶然が重なりケンイチくんの家で飼われることになる。文明の利器に囲まれた生活に慣れていくレオ。ある時偶然動物園を訪れた彼は檻の中で不自由な生活を強いられる動物たちを見て愕然とする。彼らに自由を与えたい。その為には父のように百獣の王にならなくては。

かつて生まれたばかりの時に母に言われた宿命を思い出し、探検隊に参加したケンイチ君と共に故郷のアフリカに戻ってきたのだが……彼は初めて見る鬱蒼としたジャングルにカルチャーショックを受けてしまうのだ。

あまりに長く都会で人間と暮らしていただけに、故郷の光景を単に動物が自由に動ける公園のような場所だと勘違いしていたのだ。この異文化に触れた時の拒絶感、SFではよくある手法だが、ここでそういうのやるか!と発想力の豊かさに驚かされる。

  • 驚愕の展開の連続 人間の言葉を学ぼう!畑を作ろう!お城を築こう!

探検隊は金を巡る大人同士の醜い争いで完全に崩壊し、なんとか逃げ出したレオとケンイチ。二人はジャングルの弱肉強食の哀しい世界を見て、どうにかできないかと思い至った。そこで人間の世界で学んだことを活用し、出来る限り食い合いを減らそうと工夫を凝らすのだ。

餌となる木の実が少ないのなら、畑を作ろう。

食堂を建設して食料を物々交換できるようにしよう。

人間の言葉を覚えてコミュニケーションをとることで問題を解決しやすくしよう。

森を切り開いてお城を作り、災害時のシェルターにしよう。

・・・・・・・えっ!ちょっと待って!それおかしくない!?これは作品が描かれたのが50年代ということもあり、高度経済成長期で日進月歩で生活の品質が上がったが故の、当時の日本人の素直な感性が反映されているのだと思う。先進国を見習って僕らも豊かで上等な国になろう!明治維新バンザイ!

一方僕らの世代は動物愛護運動の発展や宮崎駿作品によって「野生動物は自然のままで暮らした方が一番幸せだ」という価値観が当たり前になっている。60年経つと考え方が180度変わってしまうのか……とこの辺りの展開は流石に時代性を感じてしまった。

だが、この着眼点は寧ろ最先端であるともいえる。我々人間だって生贄やカニバリズムの風習が野蛮だと気付いたのも地球の歴史で見るならばごく最近の事だ。例えばマヤ文明の王子がタイムスリップして現代の世界を見て回り、再び元の時代に戻った時に、自分達の今までの世界観を否定して現代人と同じような生活を望んでしまう可能性はある。

ジャングル大帝劇中の動物たちは人間と同じような理性を潜在的に持っていた。弱肉強食以外の生き方を知ってしまった以上、以前と同じような殺し合いを平然と続けることはできない。しかし野生を捨ててしまう理性的・文明的な生き方には、環境破壊や戦争を平然と行ってしまうような愚かな一面もある。そもそも野生を完全に捨てるなんてことは不可能なのかもしれない・・・・・・。

ここを突き詰めていった先に「ズートピア」や「ビースターズ」の世界観があると考えると、人間の真似をする動物たちの姿は感慨深く映る。

  • 大陸移動の秘密とは?カギを握る月光石 物語は壮大なSFロマンへ・・・

紫斑病という動物だけに伝染する病の魔の手が迫った時に、新たに来た探検隊に助けてもらったジャングルの動物たち。レオはその御礼に彼らの身辺警護を買って出る。目指すは森の奥地に聳え立つムーン山、そしてそこから産出される月光石が最終目的であった。この石は磁力線を当てると強いエネルギーを発生させる。この力が大陸移動を発生させたという仮説を証明するべく、各国は調査隊を競って派遣させていたのだ。

話は脇道に剃れるが、この月光石という名の由来エピソードがまたカッコイイ。現在の地球と月は、原始地球が何らかの原因で爆発・分離して誕生したといわれているが、その時の名残が今も大陸移動として影響しているのではないか?月を誕生させるほどの膨大なパワーを秘めた特殊鉱石が地球上に存在していてもおかしくない・・・・・・。

50年代当時はまだプレートテクニクス理論が完成しておらず、どうやって大陸が移動しているかは謎のままであった。そこで架空の物質を構想することにより、独自の解釈で成立させてしまおうとする凄さに驚嘆する。その世界ならではの独自の法則や物質のアイデア自体は神話の時代からあり、発祥は手塚先生という訳ではない。しかし後のマジンガーZの超合金Zや、機動戦士ガンダムのガンダリウムやミノフスキー粒子といったすごい力を持った物質がアニメ漫画の世界に溢れていったのも、このように好奇心を擽るような展開を描いていった積み重ねがあってこそだと思う。

さて彼らはムーン山を突き進む。待ち受けるのは恐竜魔境!断崖絶壁!雪崩!氷結地獄!そして極限状態における人間ドラマが胸に熱く迫る。結末に関しては有名ではあるがもはやここで語るのはよそう……君の目で確かめてくれ!

  • いい加減ネタ消費は止めて正当に評価しよう。

こうとにかくめっちゃ熱く、そして考えさせられる展開の連続であるジャングル大帝だが、今のオタク・サブカル界隈で語られる内容の何と薄っぺらいことか。

「ライオンキングってジャングル大帝のパクリなんだって!アメ公は何でも略奪しやがってズルい奴だねー!でも手塚プロは先生の遺志を尊重して寛大な態度で認めてくれたんだってー!日本スゴーイ!ハイこのオハナシ終わりっ!」

いい加減にしろよ。この作品を侮辱してるのはアメリカ人ではなく日本人でしょうが。

とにかく作品そのものを読め!!そして本当の自然で理想的な生き方とは何かを皆で語り合おうよ!!

今の漫画評論界は手塚の過大評価を見直そうというのをスローガンとしてよく見るが、そもそも手塚の真の魅力を知らない一般層(恐らく自分も含めた)がまだまだ沢山世の中にいるのだと思う。

というより被害者アピールのために今まで供述した要素を意図的に今の人に伝えようとしていない疑惑が沸き上がってきましたよ、ええ。

都合のいいクールジャパンを宣伝したい時にだけ手塚を引用するようなこの状態のまま放置しているととんでもないことになると思う。

あと十年後、手塚治虫生誕100周年の時には恐らく記念映画をこの国は製作するであろう。そのときになって

「あれ?自分達は手塚治虫から今まで何を教わって、これから何を伝えなきゃいけなかったんだろう?」

って夏休みの宿題が終わっていない小学生のようなパニックを引き起こして、結局ろくでもない映画を作ってしまって世界から失笑される、そんな未来が待ち受けているような気がしてならないのです。

もっと古典に触れよう。漫画でも文学でも。これからの未来のために。