逆襲のモーティマー

アニメとか映画の感想置き場……になるはず

力のディズニー・技のドリームワークス #d_advent

この記事はディズニー関連ブログAdventCalender2016参加しています。

 

■自己紹介(という名の自分語り)

はじめまして。鮎方藤吉郎(@Ayukata_Tokiti)です。

これが人生初のブログ記事です。私はディズニー一直線のファンというより国内・海外問わずいろいろな作品を気が向いたときに広く浅く見るアニメ・映画ファンという立ち位置です。この界隈に関してはほぼ外野といっていい存在です。
そんな私が何故こんな場所にいるのかというと、長時間労働と既に20代後半にも拘らず全く仕事らしい仕事ができない自分の情けなさに押しつぶされそうになり、挙句下手なりに好きだったはずの趣味の絵が全く描けない状態が続き、このままでは典型的マダオになってしまう、せめてweb上に自分が生きた証をちょっとでも残して精神の安定を図りたいとブログをはじめてみたということです。長文を書くのは大学のレポート以来ですが、最近自分の中で燻っていたことを空気を吐き出そうと思います。

 

(※本文中でズートピアヒックとドラゴン1・2のネタバレがあります。)

 

 

■脚本力を大幅にパワーアップしたディズニー

 

 2016年自分が見た映画の中では兎にも角にもズートピアの印象が強かったです。私自身動物好きなのは勿論、動物キャラクターというのは物語をより記号的・客観的に見据えるには人間キャラ以上にもってこいの題材だと思っていたのでこの効果をフル活用した映画を見終わった時にはこういうのを待ってましたよ!とハイテンションになりながら劇場を後にしました。この作品はネット上ではそのテーマ性や政治的な要素の解説については大部分が語りつくされてるのでここでは割愛します。
ただ私はニックの暴走シーン(すぐ狂言であることが判明しますが)の一連のシークエンスは2014年に公開されたドリームワークスアニメーション作品・ヒックとドラゴン2のトゥースの洗脳シーンに対するディズニー流批評の意味も込められていると感じました。

 ※ドリームワークスとは?
ドリームワークスSKGが正式名称 1994年設立の映画製作・配給会社
後ろのSKGの意味は設立に携わった映画監督スピルバーグのS
元ディズニープロディーサーカッツエンバーグのK
レコード会社社長ゲフィンのGから来ています
アイドルグループみたい!
「リトルマーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「ライオンキング」のプロディーサーだったカッツェンバーグが当時のアイズナーCEOといろいろ揉めてクビにされてしまったことが
設立理由の一つだったせいかよくディズニーをライバル視している会社として有名な所です。近年経営難の影響でアニメーターを大量解雇したり、(※その為ヒクドラの制作に携わったアニメーターがアーロと少年に関わってたりします。
USJを所有するコムキャストにようやく買収先が決まったことでいろいろニュースで話題になったのも記憶に新しい所です。
代表作は「シュレック」「マダガスカル」「カンフーパンダ」「ヒックとドラゴン

 

■続編の難しさとシナリオの客観的視点

 

 

 あまりドリームワークスに興味のない人でもヒックとドラゴンの評判の良さをウェブ上で目にする人は多いでしょう。ムーランやリロ&スティッチを手掛けたクリス・サンダース監督、ディーンデュボア監督の共同で制作された第一作目は今までシュレックモンスターVSエイリアンを代表とするギャグ・パロディ作品の流れとは全く別の方向性を生み出しました。現在のCGアニメ界に共通している「異なる種族・マイノリティな存在と共存していこう」というテーマの土台を強固にした作品でもあります。

物語は何世代にも渡ってドラゴンと戦い続けているヴァイキング達が暮らすバーク島から始まります。村の長であり英雄であるストイックの一人息子・ヒックは父に憧れながらも失敗ばかりなトラブルメーカーとして浮いた存在。自分も認められたいと苦悩している中、自作のボウガンで偶然伝説のドラゴンを捕まえることに成功するのですが、傷つき苦しんでいる姿を見て彼は考えを改め、自ら逃がしてしまいます。島のとある湖畔に隠れるように住み着いた黒い竜と交流するうちにいつしか友情が芽生え、その絆は島全体の価値観を根底から変えていくのです。

ムーラン・スティッチで描かれた

「既存の価値観を打ち砕く」

「オハナは家族・何があっても」

をさらに発展させ、異なるもの同士が出会い分かり合うことは世界そのものをより良くするという主題を掲げたこの映画はアニー賞を10部門受賞という快挙を成し遂げ、世界中で大ヒットを記録しました。(……この国以外は。)

高評価を受けその後続編シリーズの制作が決定し、ドラゴンとの共存関係が成立してから五年後のバーク島を描くヒックとドラゴン2が2014年に公開されました。飛行シーンは前作を凌駕する映像美で魅せてくれます。が、脚本面では引っかかる部分があったのがこの映画の非常に惜しい点でした。(この辺りは制作チームからクリス・サンダース監督が抜けてしまった部分が大きいのでしょう。)

ヒックとドラゴン2劇中でドラゴン達には個体としての意識・知性とは別にボスドラゴンを頂点とした群体としてのネットワーク的意識があることが示唆され、その力を悪用し他国を侵略するドラゴン使いドラゴ・ブラッドフィストとの対決が山場の一つとして描かれます。主人公ヒックは「同じドラゴン使いならばドラゴンの素晴らしさが分かるはずだし話し合いで解決できる」と思い込んで彼との交渉に挑むのですが、ドラゴはかつて幼少期に故郷を野生のドラゴンに焼き尽くされた過去を持ち、絶対的な力を持ってこそ正義だと信じ切っており彼の言葉は届きません。

そして自らが従えるボスドラゴンの特殊能力を使って彼の相棒であるトゥースに本来の肉食動物としての本能を目覚めさせ、ヒックを襲わせてしまう(更にその後取り返しのつかない事態を引き起こしてしまうのですがそこは本編のご視聴をお願いします。)という前作のテーマを否定するかのような驚愕の展開にファンの意見は真っ二つに割れました。批判的意見でよく見かけたのが「一作目のヒックだったなら何らかの対策を講じておくはず、というかそんなことをさせないために今まで頑張ってきたのにただ茫然としているのはおかしい。」というものです。

その後劇中ではいろいろあって一応トゥースを取り戻しはするものの、結論としては「悪しき心を持つ者がドラゴンを利用しようとするから災いが起きる。良き心を持った者をリーダーとして一つにまとまることで平和を作ろう。」という保守的な内容に落ち着いてしまいます。そもそも善悪とは何なのか、確かにドラゴという外部からの脅威を追い払うことでバーク島のドラゴンとヴァイキングは以前より強固にまとまりました。だがもしヒックが良き心から悪しき心に転じてしまったら、例えば漫画版ナウシカに登場した土鬼神聖皇帝のような末路を歩んでしまう危険性は十分にあります……(体格やシルレットが似てるように感じるのは私だけでしょうか?デュボア監督は意図的に似せているのかも?)この辺りの問題点の決着は三作目に持ち越されるのかもしれません。ですが一本の映画としてもっとすっきりした解決法を提示してほしかった……

とそんな展開にモヤモヤしていた所、颯爽と現れるニック&ジュディの快刀乱麻を断つかのような事件解決のシークエンス。

真の黒幕であったベルウェザーがニックの肉食動物としての本能を利用しようとするのをジュディはあらかじめ計算に入れ、薬液入り弾丸をブルーベリーにすり替えた銃をわざと落とし、相手に勝利を確信させ、悪役特有の「冥土の土産に教えてやろう」な演説を二人の友情のシンボルであるレコーダー付きニンジンペンで録音し、決定的証拠を勝ちとります。

「信頼関係とはただ馴れ合うだけでは築けない。お互いの短所も認識しそれを解決するための具体的な方法を編み出してこその友情であるべきだ。」

という力強いメッセージに打ちのめされました。

その展開の前にジュディは一度挫折を経験しています。彼女は過去自分が肉食動物の同級生に苛められた経験から「自分は差別的な言動を絶対にしない。」と固く誓い警察官になりました。にもかかわらず、夜の遠吠え事件解決後のインタビューでは思わず「肉食動物族は潜在的に凶暴化しやすい」という発言をしてしまい、ズートピアを大混乱に陥れる原因となってしまいました。自分も完全無欠ではない。ひょっとしたらまた肉食動物を傷つけてしまうかもしれない。それでも私は多くの種族が共存するズートピアの未来を諦めないと決意し、再びニックとの友情を取り戻してから対決に臨んでいます。一方ベルウェザーは今まで自分が不当に扱われてきた経験しか見えておらず、どうあっても草食動物と肉食動物は分かり合えない、凶暴な相手はねじ伏せて支配するしかないという自分の考えを絶対的な善と信じこみ、故に彼らの罠にまんまと陥るのです。

「良くあろうとする人の心の中にこそ本人が意図しない形で悪しき部分が隠れている。誰であれ失敗を犯す。それでも前進し常に自分と世界の関わりを考えながら行動すべき。」

ジュディとベルウェザーの対比は本当に上手い。それはお互いにありえた可能性を映し出している鏡なのですから。
ディズニーはかつてドリームワークスのシュレックが公開された時には大企業ゆえの小回りの利かなさ・保守的な作品作りに対し批判や揶揄をされる側だったのだが、このズートピアでは批評をする側となった。その力の源は近年多くの特集記事・番組で紹介されているシナリオ会議であったり、ラセター氏の改革の努力の賜物であるわけです。そしてライバル企業の作品も抜け目なくチェックしている。感動すると同時にどこまで彼らはパワーアップしていくんだと恐ろしさも覚えます。

 

■豊富な技を会得したドリームワークス

 

では脚本面でディズニーに一歩遅れる立場となってしまったドリームワークスに明日は無いのかと言われたら、そんなことは全然ない訳です。

 近年日本でディズニー映画を売り込む際、実際は激しいバトルシーンがあるにもかかわらずポスターはゆるふわ系になっている点がファンの間でよく話題になります。しかしドリームワークスは年々その日本の配給会社が海外アニメに求めるゆるふわな部分とは全く正反対の冒険心や探求心・敵の裏をかく戦略・戦術などを物語の中心に据えた作品を作り続けています。

 

トロールハンターズ

 

パシリムでお馴染みデルトロ監督の最新作「トロールハンターズ」ドリワならではのブサカワ系主人公!勇者に変身して人間界とトロール界を救え!な王道ファンタジー。ドラクエ・FF・ゼルダ・ディズニーならコルドロンが好きだった人はハマるんじゃないかしら。日本でも12月23日からNetflixで見られます!

 

Voltron:Legendary Defender

勝利は僕らにGO!GO!ゴライオンでお馴染み百獣王ゴライオンが「ボルトロン」と改題されアメリカに輸出されて大人気になったのは30年以上前のお話。その最新シリーズがドリームワークス制作で堂々と復活しました。2Dアニメパートの制作は韓国の会社studioMir。
そのクオリティの高さから数多くの国内ロボアニメファンから見たい!という声が上がっているのですが残念なことに日本の東映アニメーションと、米国での権利を持つワールド・イベンツ・プロダクション社の間に起こったゴタゴタのせいで「日本だけ」公式な手段で視聴できないのがホント辛いです……(更にはオリジナルのゴライオンも国内でソフト化されていません。)
例によって女性ファンが非常に多く、現時点でのベイマックス・テレビシリーズの最大のライバルといっていいでしょう。

Dinotrux

 海外絵本原作の日常系ロボットアニメ「ダイノトラックス」保護者から聞く「戦争とか世界を救ったりしなくていいから純粋にメカニズムの魅力を伝えるロボットアニメが欲しい」という少なくない需要に答える作品
機関車トーマスボブとはたらくブーブーズあたりのかわいさの文脈も入っていて尚且つカッコいいという!

 

ヒックとドラゴン:新たな世界へ!

 

配信元がカートゥーンネットワークからNetflixに移ったヒクドラTVシリーズ第三弾「ヒックとドラゴン:新たな世界へ!」
とにかく燃える展開がてんこ盛りです。ドラゴンアイと呼ばれる古代の遺物を巡りドラゴンハンターとの戦いを繰り広げながら未知の島に棲む新種のドラゴン達の生態を調査・観察し、ヒック達新世代のヴァイキングはこの広大な世界において具体的に(ちゃんとライバルからのツッコミは取り入れていくスタイル)どのように生きていくべきなのか?という大河ドラマが描かれます。
動画はこのシリーズで私が一番好きなドラゴン・ファイヤーテイル(英語ではSingetail=焦げた尻尾)を紹介しています。リザードン+大王ヤンマ+コルベットな見た目通り重爆撃機並みの高火力を秘め、シンゴジラよりも先に尻尾からの火炎攻撃(正確には尻尾の先にナパームのような性質を持った油を貯めて叩きつける)を行ったすごい奴なのです!他にも奇想天外なデザインのドラゴンがてんこ盛りだよ!日本のNetflixでも絶賛配信中!

 

トロール

勿論ゆるふわ路線もきっちり開拓しています。ですが直球で可愛いものをお出ししないのがこの会社の良い意味で捻くれた点です。スーパーマリオやアドベンチャータイム・スティーブンユニバースのポップなデザインを彼らが行うとこうなるのか!

 

ドリームワークスの優れた所はディズニーが現状マーベルやスターウォーズ任せになりがちなメカニカルな要素・バトルアクションの表現を自社オリジナル作品でも積極的に発現させている点です。私はかつての東映長編作品や虫プロサンライズタツノコに近いスピリッツをドリワから感じます。

 

■嘘八百のリアリティ____目指すものは同じだが方法は違う

 私が映画やアニメを見るときにいつも気にしていることは、この作品はどんな「嘘八百のリアリティ」で楽しませてくれるのか、ということです。

この「嘘八百のリアリティ」というのは(中略)「舞台設定などは嘘(=フィクション)なのだが、全体的にみるとトータルである種のリアリティを手に入れている」という意味だ。

「嘘八百のリアリティ」のポイントは、作中の設定やキャラクターの感情といった要素に、どこか現実点と接点のある部分をつくっておくことだ。

発売元株式会社ワニブックスガンダム」の家族論

著者・富野由悠季  p14より引用

 この視点で見てみると、近年のディズニーはアナと雪の女王では姉と妹が抱えるそれぞれの悩みを作品内で描き出したり、ズートピアでは現実の人種・民族差別問題を動物キャラクターに置き換えて現実を客観的に見据えるキッカケを作品に与えたりと、シナリオに具体的な社会問題を付与しそれに連なる人間ドラマを表現することを得意としています。
ドリームワークスはまず描きたい画や映像・ギャグ描写(特にシュレックシリーズは○○のパロディーがしたい!が顕著)が先にあって、そこからどういうものを付与したらリアルになるのかというアプローチで作る傾向が多くみられます。ヒックとドラゴンでは徹底的に鳥の飛び方や風の物理的な動きを研究した結果、独自の浮遊感ある飛行シーンを実現しました。
私はディズニーもドリームワークスも両方とも愛していますが、ディズニーには勉強のできるクラスの優等生的可愛さを、ドリームワークスはオタク趣味持ちの個性的可愛さを求めて観ています。

 

■力と技の風車が回る!彼らの対決を今後とも見逃すな!

 

ディズニーから分かれて誕生したドリームワークス。日本での劇場公開はことごとくスルーされ、経営難からスタッフを大量解雇せざるを得ない立場に追い込まれても彼らの作品は注目に値します。何故なら冒頭で少し触れたように解雇されたスタッフの何人かはディズニーに里帰りを果たしたり、ピクサーに移籍しているからです。
ドリームワークスで上記に挙げたようないい意味でオタク気質なアニメの文脈を学んだ彼らがディズニーでどんな作品を作り上げるのか……おそらく日本の配給側が既存の売り方では対応しきれない凄いものを作り上げるはず。その時WDJの上層部は自分達が見落としていた部分に気付き、ファンも納得する宣伝手法に切り替わっていくかもしれません。
そしてかつての同志と戦わねばならないドリワはコムキャストに買収された結果配給がユニバーサルとなり、ミニオンズやペットでお馴染みのイルミネーションエンタテインメントが仲間になりました。(丁度ディズニーアニメーションスタジオとピクサーの関係に近い感じに。)国内では東宝東和の頑張りもあって存在感を増しつつあるイルミ作品からどんな戦略・技の数々を取り入れ、日本に凱旋するのかとっても楽しみです。

 

最後に、殆どの話がディズニーではなくドリワ作品の紹介が大半な文章をここまで読んでくださいまして本当にありがとうございました。クリスマスまであと五日!自分は残念なことにその日も仕事ですが楽しめる人は思う存分エンジョイしてください!メリークリスマス!